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大学を休学して、地元で子どもたちの居場所作りを – “ゆあぷれ””われもこう” 川邊笑さん

過疎地域にとって子どもたちの居場所不足は大きな課題のひとつ。学校と家庭以外に居場所の選択肢が無く、特に学校に馴染めない子どもたちは町からも一人孤立してしまうことになりがちです。この問題は牟岐町も例外ではありませんが、2022年に牟岐町に子どもたちの新しい居場所ができました。その場所・活動の中心人物となる牟岐町生まれの大学生、川邊笑(えみ)さんに今回はお話をお伺いしました。

学校と家庭以外の、子どもたちの居場所

編集者
子どもたちの居場所づくりをされているとのことですが、具体的な活動の内容を教えてください。

川邊
「ゆあぷれ」と「われもこう」という2つの活動をしています。まず「ゆあぷれ」は中高生が学校終わりや休みの日に集まって、思い思いの時間を過ごすための場所です。お菓子を食べて友達やスタッフとしゃべったり、漫画を読んだり勉強をしたりみんな自由に過ごしています。

編集者
中高生なら誰でも参加できるんですね。

川邊
はい。対して「われもこう」は学校に行きづらい小学生から高校生のための居場所です。何がしたいか一人一人と相談して活動内容を決めていきます。あとは個人個人に合わせたペースでの学習のサポートもしています。

▲ボランティアと民間で運営をしている2つの活動についての広報用のちらし。これらの活動は牟岐町内にあるリフォームされた建物で、どちらも無料で曜日をずらして行われています。

編集者
川邊さん以外のスタッフの方もいるのでしょうか?

川邊
「ゆあぷれ」のほうは大学生の友人たちや地域の退職された学校の先生と一緒にしています。「われもこう」は教育相談員やスクールカウンセラーをしている元教員の方と私がメインです。ボランティアで手伝いに来てくださってる方も5名ぐらいいます。

『牟岐町の事が大好きなので、現状守れるモノは出来る限り守っていきたい』牟岐町防災サークル 上田好美さん

▲以前お話を伺った元教員の上田さんもこの活動に参加しているのです。

 

編集者
「ゆあぷれ」では中高生たちはどんな様子で過ごしていますか?

川邊
自由に解放されに来ているように感じます。たわいない話の中でポツポツと愚痴やしんどいことを漏らしてくれることもあって、日々のガス抜きができる場になっていたら良いなと感じています。

▲「ゆあぷれ」の一コマ。子どもたちみんなリラックスしている様子が伺えます。

編集者
家族や友達じゃない、少し距離がある立場の人だから話せることってありますもんね。では「われもこう」での子どもたちの様子はどうでしょうか?

川邊
「今日は何がしたい?」と聞くことから始まって、静かにすごしたい、畑がしたい、とそれぞれ好きに過ごしています。でも自然と子どもたちの中で同じ悩みを話し合ったり、小さい子のお世話をしてあげたりと関係性ができています。みんなすごく優しいんですよね。

編集者
これまで学校の友達や家族には言いづらかったけど、同じ立場だから安心して言葉にできることもあるのかもしれませんね。

川邊
そうだと思います。この悩みは自分だけじゃなかったんだ、って同年代の子と共有できるのってすごく安心すると思います。

田舎にも居場所の選択肢を作りたい

編集者
では川邊さんご自身のことについて聞かせてください。現在は大学生とお聞きしました。

川邊
そうです。関東の大学なんですが、この春から1年休学して牟岐に帰ってきてます。

編集者
大学を休学したのはこの活動をするためですか?

川邊
はい。1年半ぐらい前から大学の長期休みの時だけ帰ってきて「ゆあぷれ」を開催してたんです。でも居場所って日常的に必要なものなので休学して活動することにしました。学校に馴染めない子たち専用の場づくりもしたいというのも大きかったです。

編集者
熱意と行動力がすごいですね。なぜそこまで子どもの居場所づくりに強い関心を持たれたんですか?

川邊
大学に入ってから3年間ぐらいNPO団体で学習支援のインターンをしてたんです。そこで学校に馴染めない子や貧困家庭の子、発達障害の子など様々な立場の子たちに出会って、学校と家庭以外の居場所の重要性をすごく感じたんです。でも、都会には人それぞれに合った居場所があるけど地方には選択肢が無いのがすごく問題だなと思って。で、自分でやるなら地元でやってみたい、と。

編集者
なるほど。地方に子どもたちの居場所が少ないというのは、川邊さんご自身が牟岐で過ごした学生時代にも感じましたか?

川邊
私も中学生の時にしんどくなった時期があったんですが、なかなか学校の友達には言えなくて……自分はどちらかというと子供の頃から生徒会をやったり部活のキャプテンをやったりするようなキャラだったので。

編集者
真面目でしっかりしてるリーダーって感じですかね。

川邊
そんな感じだったと思います(笑)。だからなのか、友達には悩んでいる姿をなかなか見せられなかったんですけど、先生や親など周りの大人が気付いて話を聞いてもらえたんです。でも、学習支援をして様々な子どもたちに会ったことで、自分は運が良かっただけなんだと分かったんです。私は家族や先生が気付いてくれたから立ち直れたけど、そうじゃない環境の子どもたちもたくさんいるんですよね。その子たちを受け止める場所は都会にはあるけど、私の地元のような田舎には無いよなぁ、と。

根底にあるのは「誰にも自殺してほしくない」という願い

編集者
牟岐に住んでたのは高校までですか?

川邊
いえ、中学までです。高校は徳島市内の学校に進学して姉と二人暮らしをしてました。

編集者
そうなんですか。どこか行きたい高校があったんですか?

川邊
そこまで考えがあってのことではなくて。英語は好きだったので国際英語科に行ったんですけど、何より町の外に出て行きたいっていうのが一番でした。

編集者
大学ではどんなことを勉強されてるんでしょうか?

川邊
教育学部なんですが、うちの学部はちょっと変わっていて。他の教育学部って教員養成が主なんですが、うちは心理や障害科学などもっと広く勉強できるどちらかというと人間学部みたいな感じです。教員になる学生も3割ぐらいで。

編集者
じゃあ今活動されてる過疎地域での教育支援や居場所づくりも研究対象に当てはまるんですね。

川邊
そうなんです。

編集者
今の大学を選んだ理由はその学部があったからなんですね。

川邊
元々私の根底に「人が自殺してほしくない」という想いがずっとあって。一人一人が何かあっても乗り越えていける力を持てたら、自殺する人も少なくなるんじゃないかと考えたんですね。そのためには子どものころからの教育が重要じゃないかなと思って、先生にも興味があったし教育学部に行こうと決めました。

編集者
生き抜く力が強い人を育てていきたい、という感じでしょうか。

川邊
はい。ただそれなら教員養成よりも、発達や心理などもう少し広い視点で学びたいなと思って探してたら今の大学を見つけたんです。

編集者
「人が自殺してほしくない」ってすごく強い願いですよね。何かこの考えが根底になるようなきっかけがあったんでしょうか?

川邊
さっき中学生の時しんどい時があったと話したんですけど、人間て誰しも弱いところがあるんだなと感じた出来事があって……その出来事はすごく驚きというか衝撃だったので……

編集者
ご自身もしんどくて気持ちが弱っていた時期だったというのもあるんでしょうか。

川邊
そうですね。自分は運良く周りの人たちがサポートしてくれたけど、後々考えたら環境やタイミングが違っていれば自分もどうなっていたか分からなかったな、と。誰しもその可能性があるので誰も自殺してほしくないと強く思うようになったのかもしれないです。

誰に対してもあたたかいまなざしがある地域にしていきたい

編集者
これからやっていきたいことはありますか?

川邊
「われもこう」に関しては、週1回では子供たちの学習や日々の暮らしをカバーしきれないので、行政と連携して教育支援センターとして位置付けてもらいたいと思っています。その上で学校や医療機関、社会福祉協議会など地域全体で連携できるネットワークを作りたいですね。

編集者
ただでさえ人口が少ないのに、民間とボランティアだけでは長く続けられないですもんね。

川邊
そうなんです。なので、地域で手が回らない日々の学習などはオンラインで外部の講師や大学生に協力してもえるようなつながりを県下で作っていきたいです。誰か一人のやる気ある人だけが動くのでは続かないので、私がいなくても回っていくようなネットワーク作りをするのが目標です。

編集者
最後に牟岐の好きなところはありますか?

川邊
想像していたより自分がすることを応援してくれる地元の人が多かったんですよ。人間関係が狭いのはしんどい部分もあるけど、こんなあたたかい町だったんだなと帰ってきて改めて認識しました。

編集者
牟岐町のような小さな町は、若い子ががんばっていると応援してくれる人がたくさんいますよね。

川邊
あたたかい人が多いこともあって、今後は地域食堂なども開催していければと考えています。この場所(「ゆあぷれ」や「われもこう」)に来たときだけ元気になれるのではなくて、町でいくつか安心できる場所や人が居ることが、誰もが安心して生きていける町になると思うんです。

 

誰ひとり取りこぼさず、自分らしく人生を歩めるあたたかい町にしたいと語ってくれた川邊さん。大きな願いのように感じるかもしれませんが、彼女の始めた活動で救われている子どもたちが今現在も確かにいます。この大きな一歩を途絶えさせず地域で前進さすことができれば、「誰ひとり取りこぼさない牟岐町」は実現するのではないでしょうか。

 

 

今回の牟岐人

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川邊笑さん

筑波大学人間学群教育学類4年(取材時)
ゆあぷれ
instagramアカウント:@yourplace_mugi
われもこう
お電話:080-9833-2511
メール:waremokou.mugi@gmail.com

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