磯渡しと漁と。牟岐の海に生きる和田家の男たち。

磯釣りに訪れた人を牟岐港から大島・津島まで運ぶ「金比羅丸」。
アオリイカや伊勢海老などの漁をしながら磯渡しの船を三代に渡って受け継ぐ、和田さん一家に仕事のことや牟岐での日常についてお話をうかがいました。

左から和田治さん（91歳）、伸次さん（65歳）、晃洋さん（37歳）

「金比羅丸」での磯渡しはおじいさんの代から始められたんですか？

ほうやね。磯は47～48歳くらいから始めたんよ。

磯って渡船ね。

何かきっかけが？

ブームやねぇ、当時の。

ほうや。その時期、磯渡しが急に増えてきてね。

今も船には乗られていますか？

今はもう引退や（笑）。85歳ごろかな。渡船も漁も引退じゃ。

漁師もおじいさんの代からですか？

漁師さんは前の代からや。

となると、四代目ってことですね。

ほやほやほや。

牟岐港に停船している金比羅丸。この船で日々渡船を行っている。

漁は主に何を獲られているんですか？

伊勢海老は小網。イカ、イワシ、このへんはまあ定置網やね。

獲るもんは時期時期で変わるなぁ。潜りもあるけんね。

シーズンによって魚種が違うんですね。
みなさん漁師の家に生まれて家業を継ごうと決心されたのはいつ頃ですか？

思われたっていうか高校卒業してそのまま漁師やけど。理由は家が漁師やけん、みたいな（笑）。

家業を嫌って思うことはなかったな。18歳頃に日和佐の水産学校に進学したんよ。夜に漁行って、そのまま学校に行って寝とったな。学校が寝床のようだった。

ごく自然な流れで継がれたんですね。

ほうやな～。学生時代はあんまり仕事のことは考えてなかったな（笑）。

ちっちゃい時から漁のお手伝いされていたんですか？

手伝いしてない（笑）。港へも寄りつかなんだった。全然ノータッチだった。

ヘヘヘヘヘ。

え！そうなんですね。継ぐって決まってから、いきなり船に？

ほうやね。最初はじいちゃんの船に乗っていったな。磯渡しのときは、磯でお客さんの荷物を船から渡したりしょったな。ほれで仕事覚えていく感じ。

船の動かし方とか？

うん、操船とか磯の名前とか。磯の名前もいろいろあるけん教えてもろたな。

おじいさんの船で慣れていくんですね。

そうそう、練習して。

治さんは、お孫さんが仕事として船に乗ってきてくれたときはどんな気持ちでしたか？

後継者ができてよかったなと思いました。

お孫さんの仕事っぷりはどうでした？

まぁまぁやな。

まぁまぁ（笑）。おじいさんに何を教わりましたか？

よう言いよったんは、磯渡しはお客さん相手やけんまず安全第一。怪我されたらあかんけん。

お客さんを怪我ささんようにね。

磯渡しって大島や津島までお客さんを送っていったら港に戻るんですか？

帰るというか大島でずっと待機しとって、2時間か3時間おきにお客さんとこにまわっていって、場所変わりたかったら移動するって感じかな。

お客さんにつきっきりなんですねー！

天気やって急に変わってくるけん。

大変だで。自然相手やけんどうなるか分からんだろ。そばにおらなんだら危険やけんついとるわけよ。

送り届けるまでがお仕事ってことですね。
磯渡ししながら、漁も並行してやられていたんですか？

あちこちしょったんよ。網やるときは網やって。お客さんが忙しい時は磯渡しやって。

定置網漁はお父さんと一緒の船に？

ほうやな。

はい、もう引退近いです（笑）。

らしいで。

お父さんには何を教わりましたか？

最初にいかりを放りこむ位置だけかなぁ。基本あんまりしゃべらん。いや、会話はするんやけど、細か～には「こうやってこうやって」っていうんはなかったな。乗っとったら「おい、ここでいかり放りこめ！」って感じやけん、自分でいかりを降ろす位置を見とく。「あーこのへんかな」って感覚で学んでいく。

網は体で覚えなしゃーない。言うたって分からん。体験、経験やね。

ははははは。な？ほんな感じよ。

漁の世界は言葉じゃないんですね。

網は相手任せ、潜りは自分次第

やりがいを感じる瞬間ってありますか？

ほらぁ、ようけ獲れた時。

その日の自然環境で漁獲量が変動するとは思うのですが、個々の力量で左右される場面ってあるんでしょうか？

獲る相手にもよるけんど。潜るに関しては自分の力やな。自分が潜っていって自分で見つけて自分で獲るんやけん。定置網に関しては相手任せ。魚が入りたいいうんやったら入ってくれたらいいし。

今の時期（11月）だったら何を獲られているんですか？

アオリイカやね。定置網で。

いつも朝何時くらいに？

今は遅いです。アオリイカは何時に行ってもかんまんけんなぁ。でも、みんなだいたい朝の6時30分ぐらいに行くんちゃうかな。前の日に仕掛けとって、朝に獲りに行くって感じやね。

この日はカマスが定置網に大漁にかかり、網からカマスを取る作業が大変だったんだとか。

海老網やったら午前2時。磯渡しやったら午前5時30分とか6時とかに出船。

海老網が一番早いね。1時半には起きるかな。

起きるっていっても夜中…ですね。私は下手したらその時間に就寝してます。

寝るんが早いんよ。夜7時の天気予報見てそろそろ布団入ろうかってなるもん。

時期によって働く時間も仕事内容も全く変わるんですね。あるときは磯渡し、あるときはアオリイカに備え、真夜中から海老網したり…。

潜りにいったりね。

潜りはいつごろですか？

3月～8月かな。潜りは競争やな。アワビやトコブシ、獲った分だけ儲けになるけんね。

牟岐の他の漁師さんも潜りが一番燃えるとおっしゃっていました。

獲りながら「おお、今日はこれくらいになるわ！」ってニヤニヤなるもんな。逆にあかんときは辛いね。組合行くんが恥ずかしい。みんなようけ獲っとって自分が少なかったら特に。自分がようけ獲っとるときはドヤ顔して「おらぁぁぁ」って言うて行くけんど（笑）。獲れてないときは恥ずかしいね。

やっぱり、他の人がどれだけ獲ってきたかコッソリ見ますか？

ほらぁみんな見ようじょ。誰それがようけ獲っとるってなったら、潜った場所も見とるけん、あのへんおるんやなって考えとると思う。口では絶対言わんけど、絶対。探り合いしようと思う。

「絶対」に凄みを感じます。漁師さん同士の無言の駆けひきが繰り広げられているんですね。

漁解禁前夜の胸の高鳴り

お仕事へのポリシーがあれば教えてください。

ポリシー…。あんまりないけんど、人より余計獲りたいっていうんはあるね。

夜中に起きて漁に行かれるってこと自体、私にとっては本当にすごいことだなと思います。

ほらぁ、仕事仕事。

起きなしゃーないってなってくる。

うん、仕事やったら絶対起きれる。ほなけど、反対に最初寝れんのよね。解禁の前の日とか。明日や明日やってなったら。

寝よったら、あれせないかん、これせないかんって思いだして起きてしまう。解禁初日～3日間はえらいな。

新しい漁が始まると、そのサイクルに慣れるまでが大変なんですね。

体、えらいね。

たのしい。ドキドキするね。

た、たのしい？？

子どもの遠足みたいなな。ははは。「明日や！明日や！」みたいな。

楽しみな気持ちが強いんですね。どんなドキドキですか？

今年はどないなっとんかなって思ってね、ワクワクするね。それがいいよね。ま、初日だけやけんど（笑）。

3日経ったら、いやいやってなっとる（笑）。

でも、眠れないくらいのワクワクがあるから、ハードなお仕事でも続けていけるんですね。

“解禁前夜は遠足前日のドキドキがある。”

その夜の興奮を思い出すように声を弾ませる和田さん親子。何十年も漁師の道を歩んできたとは思えない、少年のような笑顔に驚かされました。
海や天候に合わせた真夜中の出航も、船の上での力仕事も、容易いことではありません。漁師という仕事は体力勝負のハードワークであり、漁獲量＝収入のシビアな世界。それでも、漁へのワクワクが勝つ。そんな魔力が牟岐の海にはきっとあるんです。

牟岐に生まれ育って

みなさんずっと牟岐町で生まれ育ってきて外に出ようと思ったことはないんですか？

なんも思わなんだね、出ていきたいとか。漁師しようか～みたいな感じで。ここにずっとおるけん、いざええところを聞かれても分からんのんよな。当たり前すぎて。

好きなところって何があるで？あははは。

みんなええ人ばっかりやね。

近所の人とかはごっつい親しいなぁ。子どもやほっといても誰ぞが見といてくれる。

暮らしよい！

都会だったら小さい子をほっとけんでね。ここらやったら誰ぞが見てくれて、しまいには家まで送ってきてくれるもんな。「おったじょ～！！」いうて連れてきてくれるのに（笑）

お互いのお家を知っているからこそできる技ですね！ 自分の子どもだけ面倒を見るのではなく、町全体で牟岐の子どもを見守っているような温かさを感じます。

そう、家も知っとるけん。ほんなとこはええとこやと思います。

すれ違う人同士がお互いの名前を言い合えて、お互いの家族のことを知っている。
この町では、昔からずっと当たり前のように町の子をみんなで育てている。
隣の家に誰が住んでいるのか、知らないことのほうが多いこのご時世、誰か分からないから警戒するし、逆に分かっていれば安心できる。

牟岐町はみんなの顔が見える小さな町だからこそ、家族のように頼って頼られての助け合いができるのかもしれません。

今回の牟岐人

和田治さん、伸次さん、晃洋さん

職業：漁師・渡船（電話番号：0884-72-2575 【金比羅丸】）