牟岐町商工会青年部が2011年に開発した、牟岐町初のご当地グルメ、「アオリイカ黒焼そば」の勢いが止まらない。県内各地のイベントで数時間のうちに完売してしまうほどの人気を誇る、焼そば界のブラックホース「アオリイカ黒焼そば」。その旨さを隅々まで知りつくすため、イベント開催に合わせて密着取材を行った。
まずは、食して味わう。
▲鉄板の上で踊る、黒焼そばの特注ブラック麺。辺りに広がっていく香りで、誰もが足を止める。
取材したのは「全国丼サミットinみなみ2014」の屋台ブースにある「牟岐町商工会青年部謹製 アオリイカ黒焼そば」である。午前8:00前、さっそうと現れた黒服の集団。軽トラでの機材搬入時から、数人の手で瞬く間に焼き台、盛り付け台等の設置がされ、すぐさま鉄板へ火が入れられた。十分熱せられた鉄板へ油を敷き、開催直前には、次から次へと黒焼そばが焼かれていく。
出来上がりはソースに絡められた黒の麺、もやし、上にはアオリイカの切り身、そして花かつを・刻んだ阿波っ娘ねぎ・ミニトマトでカラフルに彩られている。さっそく湯気の立つうちにいただく。まずイカスミの芳醇な香りが口の中に広がり、やわらかな歯ざわりの麺から、絶妙な塩味の旨みを感じた。頂いたのはイベント限定のハーフサイズ。これだけでも美味しいが、何と言ってもビールにもよく合うこの味。わりあいあっさりしており、これならばいくつでも食べられそうだ。
太平洋の恵み。イカの王様、アオリイカ
▲牟岐のアオリイカ、正体はこんなやつなのである。今が旬で、釣り魚としても人気。
アオリイカ黒焼そばには、随所にアオリイカが使用されている。まずは上に乗っかっている、プリプリと弾力のある身。サイズが大きく肉厚で、旨味も豊富である。そして黒焼そばのもととなる濃厚な墨。アオリイカでは1杯からの量は多くは取れないのだが、なんと黒焼そばの「麺」にも、「ソース」にも使われているという「黒」への徹底ぶり。これが、芳醇な香りと抜群の旨さの「牟岐町名物 アオリイカ黒焼そば」となる秘訣なのだ。
人気を支える熱血部隊、牟岐町商工会青年部
▲鮮やかな手さばきで黒焼そばを焼き上げていく、青年部のプロ達。彼らの誰しもが、仕事も遊びも手は抜かない。
アオリイカ黒焼そばを食べるには、不定期に開催されるイベントの屋台を見つけるか、牟岐にて提供しているお店に行くか、の2つの方法がある。県内各地のイベントにて出没するアオリイカ黒焼そばの屋台の中で、次々に焼そばを作ってゆく黒づくめの集団を目にしたことがあるだろうか?彼らこそがアオリイカ黒焼そばの中核、牟岐町商工会青年部である。普段はそれぞれの仕事に勤しんでいる彼ら。だが、いざ「アオリイカ黒焼そば」の出店となると、威勢とチームワーク、ノリの良さでは、どこのブースよりも目立つ「祭り男」に様変わりする。誰か統制する人がいるわけでもないのに、自然と全員が息のあった動きで黒焼そばの調理、盛り付け、包装、販売、そして呼子という鮮やかな連携を魅せる。
焼き上げる熱気、おいしそうな香り、威勢の良い呼び込み、そして列をなすお客さん。あっという間に、そこには活気ある空間が出来上がった。
何より素晴らしいのが、みんな笑顔でいること。心から楽しみながら、アオリイカ黒焼そばを作り、売り込んでいるのがすぐにわかった。開店と同時に出来た行列は途切れず、用意していた300食は昼過ぎには完売。はや撤収かと思いきや、調理場をささっと片付けると瞬く間に、イベント会場の中へ躍り込む彼ら。アオリイカ黒焼そばを担う精鋭部隊・牟岐町商工会青年部は、仕事が終わった後は、誰よりも祭りを楽しむ「祭り男」になるのであった。
驚きの黒さに秘められた、試行錯誤の軌跡
▲焼き上げの仕上げに入れられる特製のブラックソース。イカスミをはじめ様々な素材の調合されたソースは、各材料をまとめつつ、それでいて強烈な個性を失わない。
デビューから3年を迎え、牟岐の、今では徳島の人気グルメとして呼び声高いアオリイカ黒焼そば。しかし、完成に至るまでの道のりは、決して順風満帆なものではなかった。
牟岐町は最盛期の人口から減少の一途を辿り、ついに半数を割ってしまった「過疎地域」である。「このままでは町は元気がなくなり、消えてしまうのではないか」という状況の中で、牟岐町商工会青年部がある案を立ち上げた。それが、「地元の特産品であるアオリイカを使った焼そばを売り出し、まちおこしをする」というプロジェクトである。
だが、使用する具材、味付け、調理の順番、完成品の見た目…様々な要素を0から試行していくが、納得いくものが出来ない。
「だめや、酸っぱい」
「なんか、違うわー。さっぱりし過ぎてパンチがないけん、つまらない味や」
「イカスミの匂いがきっついな。うーん、どないしよか」
……ただただ、時間だけが過ぎてゆき、焦りはつのるばかりの日々。
そんな中、ついに初出店のイベントまでわずか数日というところ。苦心の末に何とか、「これならいけるはず」とアオリイカ黒焼そばを完成させた。「果たして、お客さんに受けるのか…」「全然売れんかったらどないしよう…」だが!そんな不安をよそに、お客さんからの反響は抜群に良い。
「これは…!うまい!!」
「今まで食べたことない味で、新鮮!」
「見た目に反して意外とあっさりしてて、どんどん食べたなるわ~」
「うおっ!うまっ!ビールもう1杯買うてこな(笑)」
と、結果は大盛況。見事完売というデビューを飾ることが出来たのだ。今までにない味に舌鼓を打つ、お客さんの笑顔。それを見てホッと喜ぶ、青年部の笑顔。牟岐の町に、新たなる希望が灯る瞬間だ。
やみつき必至の黒の貴公子、アオリイカ黒焼そば。次の舞台はどこへ
▲開店前から立ち並ぶ、たくさんのお客さん。小さな子どもからお年寄りまで様々な人に気に入られる味が、そこにある。
一度食べたらまた食べたくなる絶妙な味付けと、ソースと麺が鉄板の上で踊る時の忘れられない香りで、徳島県南部を中心にファンを掴んで離さない、アオリイカ黒焼そば。初めての出店から今までの3年を振り返り、これからアオリイカ黒焼そばは、どこへ向かってゆくのか。牟岐町商工会青年部の一人、和田原明(わだ はじめ)さんに、今後の展望を伺った。
―これまでを振り返って。
「僕らの活動は、『牟岐に人が集まるきっかけとなれば』と思ってやっています。アオリイカ黒焼そばの開発が、本当にそのプロジェクトの第1弾で。構想当時はぜんぜんうまくいかなかったんです。特に苦労したのがブラックソース。黒く、そして美味しくするのがかなりの難題で。試行作品の中には、どうしたらこんなにまずくなるんやろって思うようなもんもあったんですよ(笑)それが今では、あの時には考えられないほど人気を頂いていて、すごく嬉しいことです。」
―お客さんの声を聞いて。
「いや、もうとにかく『アオリイカ黒焼そば美味しい!』と言ってもらえるのが嬉しくてしょうがないです。それから驚いたのが、女性の方に受けが良いことなんですよ。イカスミで歯が黒くなっちゃうから敬遠されるかな、と思ったら全くそんなことなくて。販売時に付けてお渡ししている、「お手拭き」ならぬ「お歯拭き」が功を奏しているのかもしれませんね。そしてやっぱり、一番達成感を感じるのは、『牟岐を知ってくれて、これをきっかけに訪れてくれた時』です。牟岐を元気にすることへ一歩近づいたかなと、思います。」
―今後の展望、抱負を。
「『牟岐アオリイカ黒焼そば』はおかげさまで大人気です。牟岐に来て食べてくれる方も増えているし、果てはB級グルメのチャンピオンを狙うつもりで、これからも色んなところでアオリイカ黒焼そばをお届けしたいと思っています。それと、アオリイカ黒焼そばの人気に甘んじることなく、次なるプロジェクトも打ち出していきたいなと考えています。僕ら牟岐町商工会青年部一同、元気な宣伝部隊として、どんどん牟岐を盛り上げていきたいです。これからもどうぞ、『牟岐アオリイカ黒焼そば』をよろしく!」
一度食べればやみつき間違いなし、牟岐アオリイカ黒焼そば。牟岐へお越しの方は、是非とも食べていただきたい。そして次回は、「牟岐町のお店で提供している『牟岐アオリイカ黒焼そば』」にスポットを当てた取材を予定している。乞うご期待。