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60歳で炭焼き職人に。山と窯で木の声に耳を傾ける。

60歳で炭焼き職人に。山と窯で木の声に耳を傾ける。

 

西澤秀夫さん(75歳)

カンカンカンカン――上質な備長炭は叩くと甲高い金属音が響きます。緑豊かな場所でその音を鳴らすのは炭焼き職人の西澤秀夫さん。山あいの西又地区に構える炭窯「牟岐色窯」にお邪魔しました。

窯は山道の途中、清らかな小川のそばにあります。細い木の橋を渡った先に立派な窯が現れます。

西澤さん
まあ座り。お湯沸かしてコーヒー淹れるけん、ちょっと待ってな。

窯に着くやいなや、西澤さんお手製の小屋へ案内されました。壁にはここに訪れた人の名前が直筆で記されています。椅子は年輪が美しい丸太。炭火で沸かした山の湧水でコーヒーを淹れてくださいました。美味しい。BGMは先ほど渡ってきた沢のせせらぎ。なんとも贅沢な気持ちで満たされます。

編集者
炭窯はいつから始められたんですか?

西澤さん
60歳の時に建設業を引退して、それから。最初はここじゃなくて、元々親父が焼いとった窯を使ってちょっと下のほうでしょったんよ。仕事を退職したらすることないで。商売とかではなく自分の家に使うのに炭を焼いてたんよ。

こちらが以前使っていた炭窯。雨水の浸水などがひどくなってきたため、今では使わなくなった。

編集者
お父さんの窯からこの窯に移ったのはいつごろですか?

西澤さん
今年で3年目。親父の窯は小さかったけん、山の方で大きいにしてやりたいなぁと思ってな。ほんで役場に相談したら窯を開けることになって。牟岐町の産業課の人たちやシラタマ学級の小・中学生や地域の人も手伝いにきてくれて、みんなでこの窯を作ったんよ。

編集者
窯自体が手作りなんですね!

約2年ほど前の窯を制作している時の作業の様子。これは窯の中の赤土を削っているところ。

西澤さん
そう。もっというとここは3年前は山だったけんね。切り開くところからやったわけよ。窯はね外側は石を積んどって、内側は20cmぐらいの厚みの赤土を練ったものでできとる。てっぺんの土は固まるまでに1カ月かかったね。

編集者
昔、この辺りは西澤さんのお父さんのように炭窯をやっている人が多かったんですか?

西澤さん
今から60年くらい前かな…わしが中学校卒業する時分は、ほとんどが炭焼きじゃったけんな。炭を焼っきょらん家はほんまになかった。自分らの家には、炭を焼いたときに出る商品にならんような残りクズを使っとった。それでも町の人は売ってって言うてたな。自転車に積んで町に行かなあかんかった。

感覚がものを言う備長炭の世界

編集者
備長炭の材料には何の木を使われていますか?

西澤さん
ウバメガシ、カシ、シイ、サクラ、ツバキ。

炭窯の近くには次に焼くための材料が用意されている。

編集者
炭ができるまでの行程を教えてください。

西澤さん
山に行って、さっき言ったような炭の原料になるウバメガシやカシの木を切るでしょ。そして、車に積んでここまで運んでくる。切り揃えた原木を立てた状態で隙間なく窯の中に並べる。ほんで、窯の入口部分を塞いでいって残った穴のところ(焚き口)から雑木を入れて燃やしていくんよ。1週間くらい燃やし続けて原木の水分を飛ばす。最初は水分を含んだ白い煙が出るんよ。ほれがな、だんだん木酢液みたいな酸い~匂いに変わっていくんやけど、これが炭化の合図。焚き口や空気穴のほとんどを閉じていって5日くらい蒸し焼き状態にするんよ。煙がでんようになって炭化の最終段階に入ったら、今度は塞いどった焚き口や空気穴を一晩かけてじわじわ開けていく。そのときに穴から青白い炎が出てくるんよ。赤い炎が出たときはあまりいい炭でないんよな。ほんで、ゆっくり手前からアツアツの炭を窯から出していくんよ。

炭焼き情報

炭焼きはこのような工程で行われます。
【原木の伐採】→【木ごしらえ】→【窯入れ】→【口焚き(燃焼)】→【炭化】→【ねらし(精錬)】→【窯出し】→【灰かけ】

一日かけて炭を取り出している作業の様子。炭が赤くなっている様子でどれだけ熱いかが分かる。しかしとても綺麗な色。

編集者
炭作りで難しいことは何ですか?

西澤さん
炭化が始まる前に穴を塞ぐタイミングの見極め。これが難しいんでな。ちょっと遅れたら、あの広い窯口から煙と火が出てくるわけよ。ほないなったら、中の炭がパーやね。

編集者
窯の中の原木の様子は外から全く見えないと思うんですが、どうやって見極めるんですか?

西澤さん
炎の中にあっても煙と匂いで原木の乾燥具合を判別できる。今、まさに窯は燃焼中なんやけど、ちょっと酸っぱい匂いがするだろ。中の木のほとんどが乾燥できてくると、この匂いが物凄く強くなってくるんよ。いつそうなるか分からんけん、つきっきりで窯の番をせんとフタするタイミングを逃すんよな。

編集者
ギリギリのところで見極めなくちゃいけないってことなんですね。

西澤さん
フタ閉じるんは、ほんまに瞬間やな。「今!」っていうんを伝えるためにも他の人に見とってほしいのにタイミングが合わんのんよ。ちょっとの差で。あの窯いやらしいけんな、もうそろそろと思って人を呼んだら、まだだったりするんよ(笑)

編集者
感覚で計る…まさに職人技だと思います。西澤さんが思う「いい炭」とはどんなものですか?

西澤さん
いい炭は音がちゃう。金属音がするんよ。そんな炭を作るためには窯から“ゆっくり”出すんが大事。だいたい200kgぐらいの炭を15~16回に分けて出すかな。熱いけんって一度に出してしまうと叩いたときにカンカンって音がならん。ガサガサの炭になってしまう。火加減を見ながら熱くてもゆっくり出さなあかん。

編集者
やっぱり、かなり熱いんですか?

西澤さん
熱いいうもんやないよ。最高温度は1000度超すっていうくらいやけんな、熱さが違う。鉄の棒がふにゃーってなるくらい熱い。

炭を取り出している時の炭窯の様子。口の前に行くとカメラが溶けるんじゃないかと思うほど熱い。

編集者
大変な熱さに耐えていい炭が仕上がるんですね。いい炭の定義が他にもあれば教えてください。

西澤さん
いい炭は持った時に重たいし硬いな。それと、やっぱり火をつけてから消えるまでの時間が長いわな。12時間ぐらいは持つ。あと、火を入れたときにパチパチと弾けない。

炭窯のありのままを伝える

編集者
今のお仕事のどんなところに魅力を感じますか。

西澤さん
きれいな炭ができたらやっぱり嬉しい。あと、夏、使えるで。バーベキューに。昔、ここらへんは鰻がよう獲れよったんよ。鰻焼くのが好きでな。

編集者
備長炭で焼いたら絶対美味しいですね。

訪れたこの日も西澤さん自身が焼いた炭を使ってコーヒーを入れてくれました。

西澤さん
今はおらんけど、昔は鰻がよう獲れたよな。あと、備長炭は火を起こさんでも湿気取りや臭い消しにも使えるし、置いとくだけでかっこいいでな。

編集者
炭はどこで販売されてるんですか?

西澤さん
出荷はしてないんよ。売ってくださいってここに買いに来てくれた人には売ったりもしよんやけどな。この窯で最初に作った炭は防災用にと思って牟岐町に渡したな。あとはイベントでこの窯に来てくれる人達のために取っておいてる炭はあるな。

編集者
炭窯をしたいっていう人もたまにいらっしゃるんですか?

西澤さん
おるんだろな。炭窯を知ってもらうこと自体がええことだと思う。若い人が興味持ってくれるんは嬉しい。

今まで炭窯を作るために多くの人が興味を持ち、手伝ってくれたことで出来上がった。

編集者
窯の担い手は?

西澤さん
手伝ってくれる人はおるけんど、担い手がおらんけんな。こっちは年やしな。来てくれたらありがたいな。ただ担い手となったら木を切らなあかんでな。あるやつを使うんちゃうけん。今の木はおっきいけん大変。ノコギリで切る木は昔はなかった。ほとんど斧で切っとったけん。

炭焼き情報

担い手に興味を持たれた方はこちらへご連絡を。
産業課 電話番号 0884-72-3420
編集者
西澤さんは木の切り方や炭の焼き方はだれに教わったんですか?

西澤さん
木の切り方は小学校時分から親父についていきょったけん。山行って見ていろいろしょったけんな。ほんで中学生になったら本格的に斧持って山に入ってた。斧をゾギゾギに研いどいてウバメガシ林に持っていっきょったんよ。そしたら山の中で会ったおっさんが「おい、若いし、ほない研いどったら刃がボロクソになるぞ」って言うんよ。実際やってみたらおっさんの言うとおりウバメは硬いけん、刃がボロボロなってもうて。「ウバメ切るときは刃を丸くするんじゃー」って教えてくれたわ。

編集者
じゃあ、木の切り方は中学生の時にはほぼマスターされていたんですね。

西澤さん
ほうじゃ。うちの親父は小さかってわしの方が背が大きかったもんやけん、山行って一緒にやるんは喜んでくれとった。ほんでな、昔の人はこんまいけんど力が強いんよ。物を担ぐだろ。わしは重いもんやけん、はよう行きたいで。親父はゆっくり行くんよ。昔の人はゆっくり動いて持っていくけんな。わしは早く行って早く荷物をおろしたいのに。あれが一番辛かったな(笑)。

編集者
炭の焼き方もお父さんを見て覚えられたんですか?

西澤さん
炭も親父を見ながらしょったねぇ。

大変なところも山の暮らしの魅力

編集者
ずっと牟岐の山間部で生活をされてきて感じることはありますか?

西澤さん
最近は山がほったらかしでかわいそうに思うね。手入れができとらんけん、木ばっかりなんよな。石ばっかりで土がないもんね。昔は切った木が腐って土が肥えていっとったんやけどなー。

編集者
大変に感じる部分はありますか?

西澤さん
言ってしまえば何もかも大変なんやけどね、することが。窯でも、木を切るんでも、木を出すんでも。木を下ろすにしても、すぐほこにあるんとちゃうけんね。何十mも上から下ろしてくるけん。でも、みんなよう手伝ってくれるけん、できるんやけど。

炭を出す作業も、地域おこし協力隊員や集落支援員の方々と一緒になってやっている。

編集者
都会にはない牟岐町の魅力ってどんなところだと思いますか?

西澤さん
海も山も川もきれいんな。星もきれいんじょ、ここ。うちのばあさんは大阪から嫁いできたんやけど、最初に牟岐で星空を見たとき、ギャーギャー言うとった。「手届くとこに星があるー!」って(笑)。「大阪は星が1個しか見えんかった。こんなに星がきれいなんだったら、星座の名前覚えとけばよかった」って嬉しそうに騒いどったな。

編集者
ここでの生活の中で一番好きな時間はなんですか?

西澤さん
一日動いとる時が一番幸せやな。

60歳から炭焼き職人になった西澤さん。
山の暮らしと炭窯の仕事は確かに「何もかも大変」なのかもしれません。
しかし、町の人と一緒にイチから作り上げた“牟岐色窯”では、今日も美しい備長炭を作るべく火が焼べられます。
山で木を切り、煙と匂いを読み取る西澤さんの表情はエネルギッシュ。働きっぷりに憧れる人はきっと多いはず。

「まぁ、好きでしよるけんどうってことないけんな」
西澤さんがさらりと口にしたこの言葉に、彼の生き様のすべてが凝縮されているような気がします。

今回の牟岐人

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西澤秀夫さん

職業:炭焼き職人

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