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釣り人と夢をのせて、牟岐大島へ今日も行く – 海漁丸 山下洋介さん

釣り人と夢をのせて、牟岐大島へ今日も行く

磯釣りの聖地と名高い「牟岐大島」。無数の岩礁に黒潮が流れ込む好漁場として有名で、多くの釣り好きの心を魅了しています。そのため、古くから牟岐町では、港と大島の釣りポイントを結ぶ渡船業が盛ん。今回は、渡船が並ぶ牟岐港でも一際異彩を放つショッキングピンクの船「第十八海漁丸」に乗る山下洋介さんにお話を聞きました。

第十八海漁丸船頭 山下洋介さん(37歳)

編集者
山下さんのお仕事について具体的にお話をお聞きできればと思っています。

山下さん
メインは磯釣りの渡船業です。あとは船釣り。この2つが中心ですね。

編集者
このピンク色の船が山下さんが乗っていらっしゃる船ですか?

山下さん
はい、そうです。完成してからまだ一週間くらいですね。これで磯釣りも船釣りも全部行っています。

編集者
すごく目立ちますね。色はご指定されたんですか?なぜピンクを選ばれたのか理由が気になります。

山下さん
目立つようにですね。遠くからでもすぐ分かるように。個人の造船所で細かい部分まで完全オーダーメイドで作りました。

写真提供:木村悠

編集者
こだわりポイントを教えてください。

山下さん
ショッキングピンクの塗装はもちろん、個室トイレつきにしたところかな。あとは定員をようけとった。お客さん20名乗せられます。それとピンクにしたんで、どの船かお客さんに説明するんもごっつい楽ですね(笑)。

編集者
確かに。海の上でもすぐに海漁丸を認識できますね。

古くから伝わる磯釣りルール「牟岐大島方式」

編集者
お仕事の一日の流れを教えていただきたいです。

山下さん
今の時期(6月末)だと朝5時30分に磯釣りに来たお客さんを乗せて牟岐港を出航。そして、6時に大島で抽選するんです。

編集者
抽選!?ですか?

山下さん
そう、くじ引きをするんです。ルールを説明すると、まず大島へと向かう船内で海漁丸のお客さん同士で降りる順番をくじ引きをするんですよ。一番くじを引いた人が船の代表。大島の「抽選場」へ各渡船の代表が降りていって、抽選で磯割を決めるんです。大島の磯は①~⑲まで区画が割り振られていて、たとえばうちのお客さんが①を引いたら、その磯に船をつけます。それで船内のくじ順にお客さんを①の磯へ降ろしていくんです。

写真提供:木村悠

編集者
最初に磯に降りた人ほど、その区画内の好きなポイントで釣りができるということですね。抽選は毎日あるんですか?

山下さん
ほうやね。よその渡船が出てきとったら抽選はありますね。

編集者
そんなルールがあったとは初めて知りました。

山下さん
これを「牟岐大島方式」と呼びます。

編集者
そういったルールは、牟岐町以外の磯釣りスポットでもあるものなんですか?

山下さん
あんまり聞かないですね。牟岐の磯釣りは100年の歴史と言われてるんで、大正の初期からこうやってやっているんでしょうね。

編集者
抽選が終わってお客さんを磯に渡したら、山下さんは一度牟岐港に戻られるんですか?

山下さん
いや、もうずっと大島の周辺におります。8時30分頃と11時頃に見回りにいくんですよ。2回磯替わりができますよっていうのを案内するんです。「どうですか?」っていうんをマイクで聞いて、チェンジしたい人は乗せてあげて別の磯に向かいます。ほの場合は空いとる磯だったら自由に選べるんで、くじも何も関係ないんですけどね。

写真提供:木村悠

編集者
最初だけが抽選なんですね。お客さんのターゲットは主にグレとか、イシダイとか?

山下さん
グレ、イシダイ、今の時期やったらイサギ。この3つがメインやね。

磯釣りのメッカ牟岐町で、磯釣り大会が今年も開催されました!

編集者
お客さん自身、狙いの磯があるものなんでしょうか?

山下さん
くじによってはええとこと悪いとこがあるんですよ。カングレの冬は、8番くじの「ヒッツキ」「ヤカタ」っていうところが一級磯ですね。みんなここを引いたら、わぁーってなるね。雄叫びあげる人がおるくらい(笑)。10人がそこで磯釣りしたら、冬のよく漁れる時期だったらカングレが100匹とか200匹あがりますね。

編集者
すごい数ですね。お目当てのスポットを狙って抽選に臨む姿が目に浮かびます。釣りを終えたお客さんを港へ送るのは何時ぐらいになるんですか?

山下さん
今は14時に帰ってきます。時間は時期によって変わります。

家業を受け継ぐ船頭として磯釣り好きの一人として

編集者
いまの渡船のお仕事にはどうして就かれたんですか?

山下さん
僕で四代目なんです。だから家業を継いだって感じですね。最初はたぶん船釣りがメイン。ひいおじいちゃんもちょっとは渡船をしよったんやけど、大きくしたんは僕のおじいちゃんやね。それで親父、俺って感じです。

編集者
お仕事の大変なところはどういったところですか?

山下さん
海が荒れとる時やね。波があるのに磯に船をつけるっていうんがかなりの技術がいるんですよ。

編集者
安全にお客さんを磯に降ろさないといけないですもんね。

山下さん
海の荒れ様で出航できるかが決まるんで毎日天気予報をきちんと見て、今から出てくる波なんか、減っていく波なんかを見極めています。どこの磯につけられるかっていうのも考えますね。

編集者
最初はお父さんと一緒にお仕事されていたんですか?

山下さん
まぁ、親父ともそうなんやけど、おじいちゃんとよういっきょったね。

編集者
おいくつの時ですか?

山下さん
継いだのは今から15年前。23歳くらいの時ですかね。家を継ぐ気は元々なくて、それまではよそに働きに行ってたんです。徳島市内でバーテンダーしてた時期もあったんですよ。まぁ、長男やけん、ゆくゆくは継がなあかんやろうなっては思っとったんです。それで母方のおばあちゃんが亡くなったのをきっかけに牟岐に戻ってきました。

写真提供:山下洋介

編集者
おじいさんと一緒に船に乗られていて一番の学びはどういった部分ですか?

山下さん
ほぼ全部やね。気性の荒いじいちゃんやけん、ケンカした時は大島の抽選場に降ろされたこともあって(笑)。しゃーないけん親父に電話して迎えにきてもらいました

編集者
けっこう怒られることも?

山下さん
まぁね。優しいんは優しいんやけど大事なところはやっぱりね。お客さんのことが一番って感じの人やったけん。

編集者
これだけは絶対に守れ!っていう教えがあればお聞きしたいです。

山下さん
親父は「安全第一でがんばれ」って言うけど、じいちゃんは逆やったんよね。とにかくお客さんに釣らせてあげようと思ってよくしてあげてた。多少海が荒くても。その代わりずっと一日船の上から危なくないか見ていましたね。

編集者
釣ってもらうことを最優先に考えるおじいさんだったんですね。仕事は一から十まで口で説明して教えてくださったのか、それとも、見て覚えろスタイルだったのか教えてください。

山下さん
見て覚えろですかね。最初は、船の先頭でお客さんの荷物を渡す仕事を任されたんです。それしよったら、どの方向から磯につけるかとか、どこに船が当たる浅い磯があるかとかがよく分かるんで。その仕事を5年くらいしたかな。

編集者
漁港だと船に乗り降りしやすいように階段があったり、はしごがあったりしますが、磯にはそういったものがないってことですよね?

山下さん
磯はほんまにないです。船より低いところがあったり高いところがあったり。船をつける方向も大事なんです。こっちからつけたら下に磯があるけん船にガンッて当たったり…。磯によって船をつける方向が決まっとんです。

編集者
お客さんはどうやって降りるんですか?

山下さん
船頭がつけやすいところに船をつけて、安全に降りてもらいます。船のマイクで喋りながらやるときもあります。荷物はお客さん同士協力して運んでもらっています。

編集者
大変なお仕事だと思いますが、やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?

山下さん
やっぱりお客さんがようけ釣って喜んでくれた時。なかでも「ここに降ろしてくれてありがとう」って言ってもらえた時が一番嬉しいね。魚が釣れたのはお客さんの力なのに、そういうふうに言ってもらえるとありがたく思います。

編集者
それくらい場所が大事ってことですね。

山下さん
場所は大事やね。あと、海漁丸の特長は船頭自身が釣りをしてるところ。船頭全員が釣りしようわけではないけんね。うちんくはじいちゃんも親父も俺も釣り自体が好きなんで、ほこは強みかな。5年の修業の間に全部の磯にあがって釣りしたけん、実体験をもとにどういう潮がきていたらこっち向きに釣れるとか、どういうタナ(魚のいる場所)で釣れるとかが、磯釣りする人と同じ目線で言えるんです。

写真提供:木村悠

宝の島「大島」の新しい可能性を引きだす

編集者
山下さんが生まれ育ってきた牟岐町の魅力についてお聞きできればと思います。

山下さん
町の好きなところは「海」と「島」。年間通して、陸におるよりも長いんちゃうかって思うくらい海の上で過ごしてるんでね(笑)。やっぱりね、大島周辺に島があることによって、魚が多いんです。めっちゃでっかい漁礁みたいになってるんで。

写真提供:木村悠

編集者
島があることが重要なのでしょうか?

山下さん
何もない海だったら魚は集まらんけど、島があって浅いところがあるってことは小魚がいてそれを食べに来る魚がおるってことなんですよ。かなり恵まれた環境やなって思います。

編集者
自然と密接に関わる暮らしの中で一番大事にしていることは何ですか?

山下さん
仕事が趣味みたいなものなんです。僕らの仕事は自営業やけん、やったらやっただけ結果になるんで。新しい船も買ったし、これからもっと頑張らんと(笑)。

編集者
家業以外にも、大島でのバーベキューやSUP、釣りの体験など新しいことを始められているとうかがっています。

山下さん
バーベキューは今年で8年目になります。大島の湾になっているところに砂浜が2カ所あるんです。俺自身、ちっさい頃から親父らと一緒に大島へ海水浴に行っていて、バーベキューもよくやっていたんです。俺が覚えとうぐらいやけん、子どもらにとったらかなり印象に残るやろうなって。ほんっまに海が綺麗なんでね。釣りをしない一般のお客さんも大島に来てもらうきっかけにもなるし。主に島への送迎をやって食材や飲み物は持参するスタイル。日よけのテントとテーブルとコンロは貸出もあります。

写真提供:木村悠

編集者
プライベートビーチでのバーベキュー…。贅沢そのものですね。

山下さん
基本1ビーチにつき1組なのでゆっくり過ごせると思います。SUPと釣りの体験は去年から7月8月限定で始めました。SUPは友人がインストラクターを務めています。釣りは初心者の方向けに大島周辺でいかりを放りこんで船釣りですね。磯だとハードルが高いんで、入門編として始めました。道具もレンタルしてるんで手ぶらで来てもOKにしています。これを入口に釣りを好きになってもらって、最終的には磯釣りにチャレンジしてもらうんが目標ですね。

写真提供:木村悠

編集者
県外の方に牟岐をオススメするとしたらどんなところですか?

山下さん
自然がたくさんあるところと魚がおいしいところやね。今やったらイサギとヒラソウダガツオ。このへんの人はヒラソウダガツオのことを「スマ」って呼ぶんやけどね。牟岐に人が来るんは嬉しいこと。そのためには雇用を増やさんと。もっと海漁丸を大きくして、インストラクターを雇えるようになりたいなと思っています。

牟岐が誇る自然をフィールドに代々受け継いできた渡船業に加え、新しいことに挑戦し続ける山下さん。
磯を愛し、海を愛し、仕事を愛する彼だからこそ大島のさらなる魅力を発掘し発信するパワーが湧き上がってくるのでしょう。
新調した船は、大島へ未来を捧げる決意の表れ。
空と海が織りなすブルーの景色の中でピンク色の“第十八海漁丸”は輝きを放っています。

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静寂から一転、しなる竿の重み!牟岐大島、冬の磯釣り・後編

 

今回の牟岐人

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山下洋介 (やましたようすけ)

第十八海漁丸船頭

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