磯釣渡船に乗り、ついに牟岐大島での釣りが開始された。めまぐるしく動く潮。冬の美味しい魚、グレを狙う釣り人達。撒き餌のおこぼれを狙う海鳥。五感で感じる冬の牟岐の海、後編をお届けする。
前編はこちら。
前編
海と空と絶壁、釣りに100%意識を傾け、冬の魚「グレ」を待つ
目の前。潮がめまぐるしく動いている。左には櫂投島、向こうには牟岐が見える。さあ、グレ釣りの開始。
とても長い釣り竿を伸ばし、ウキ、針を取り付けていく洋介さん。普段は「第八海漁丸」の船頭として活躍しているが、今日は自身も釣り師として磯に降り立った。ウキ作りのプロが手作りしたらしい、一つ数百円、数千円の高級ウキを丁寧に取り付ける。
なにやら撒き餌の入った容器。と、柄の長い謎のスティック。
冷凍オキアミのブロックから、一尾出して針につける。写真はどアップだが、実際のサイズは3cmくらい。竿を立て狙いを定めて、仕掛けを海に投入。さきほどのウキが正面10mくらいの場所に浮かんだ。
撒き餌の箱から、柄の長い先がスプーンみたいなスティックで、餌を2,3回放り投げる。下投げのラクロスのような感じで、まとまった量の撒き餌がウキの近くにポチャン。おおお。抜群のコントロール。
この釣り、フカセ釣りという方法。釣りは全然わからないので、ググってみた。
オモリを全く使うことなく、ハリとエサの重みだけでサシエを沈めて釣る方法。極限までシンプルにしたこの釣りの特徴はシンプルがゆえに魚の警戒心をかいくぐることができること。エサが自然に落下し、自然に潮の流れに乗るため、エサに対する食いが良くなる。そのため、マキエと同調させることがとても重要で慣れてくるとフカセ釣りの奥深さに魅了される人が多い。
出典:http://www.gyonet.jp/wiki/index.php/フカセ釣り
つまり、警戒心の強いグレを釣る、難しい釣り方だ。潮の流れがわからないと出来ない、高等技術。開始しても、すぐには釣れない。潮が動いているか、エサは食っているか、当たりはあるか…。探りながら、1時間ほど経ったとき。
来たっ!グインとしなる竿。さあ、グレなのか!?
竿を立てて勢い良くリールを巻く洋介さん。そして海面にはついに魚が!
タモを伸ばして掬いあげると…
おおおっ!釣れました、グレ!群青色の体色、ビー玉のような目玉、エサをかじり取るおちょぼ口。
グレ(メジナ)は磯の魚。冬は臭みもなく脂が乗り、刺し身・焼き切り(たたき)・焼き魚・煮付けといった料理に使われ、抜群のうまさを誇る人気の魚だ。磯釣りで美味しい魚を釣って持ち帰れば、家庭でのお父さん方の株も上がるというものだ。
体長は38cmくらいで身もしっかりしていて厚い。パワーの有る魚なので、ガツンと来る引きが釣り人にはたまらないらしい。
新鮮なうちに、ナイフを入れて活き締めにする。すると瞬く間に、体色は黒っぽくなる。店で売られているグレはこの状態になったもの。
おおっと!?お隣の方もかかった様子。横から見ると、ものすごい引きの様子がありありとわかる。
一瞬の出来事。一気に巻き上げるかと思えば、ぴたっと止まり竿でいなす。何回か繰り返したのち、海面まで来たグレをタモで掬いあげる。それにしても、めちゃくちゃ伸びるタモだ。
活きのいい寒グレをGET!遠目から見ても、丸々とした大きなグレだ。しかし、改めて見ても、やばい場所で釣りをしている我ら。ちなみに釣り人たちのいるポイントは名前が付いている。手前のおじさん二人のところは「タタミ」、右奥の小さく見える白ズボンの方のところは「タキ」。タタミなど、畳一畳分しかないから付けられた名前だそうだ。
不意に右側に船がやってきて、釣り客がポイント「田所」に降り立つ。「ある時間ごとに磯変えって言って、釣るポイントを変えられるんよ」と洋介さん。
そして小休止。朝ごはんの恵方巻きを頬張る洋介さん。磯釣りに来る際は、釣り客は各自で弁当・飲み物を持参する。
休憩後、再びトライ。でも、ぱったりと食い付きがない。この釣りには「時合い」というものがあり、潮の流れ・水温・魚に食欲があるかどうか…など色んな条件が合った時でないとなかなか釣れないらしい。釣れるときは付近でも良く釣れ、釣れない時は周りも全然…という感じである。
時合いは良いのか、悪いのか。そして待っていると…
ぐっと引き、何やら釣れました!ハゲ(カワハギ)、これも美味しい高級魚です!肝醤油で食べる刺し身、ぶつ切りにして味噌汁にも。
櫂投島の決闘
その後、昼前に磯変えで櫂投島へ移ることに。
再び第五海漁丸に乗船。
釣果や潮の具合を話す少しの間に、櫂投島到着。
だいぶ潮が引いてはいるが、やはりエクストリームな場所だ。
冬は水の透明度が高く、海の底がよく見える。偏光サングラスを使えば、魚の影も見えるそう。
ここで牟岐大島の磯釣り後半戦スタート。櫂投島は、なんとか岩を伝って移動できそうなので、色々写真を撮りに行く。というか、先ほどとは段違いに風が強くて寒く、僕は無念のリタイア。暖かそうな場所へしばらく自主避難する。
探検もとい日向ぼっこから戻ってきたところで、依然として寒い。洋介さんもぱったりで、何故かそろって大岩の上で昼寝タイムにすることに。寝転がると風が当たる面積が小さくなり、心なしか寒さが和らいだ。
一眠り後、再び釣り開始。少し潮の動きがゆっくりになってきたなあ、と話しているところで洋介さんに急激な引きが!
なんと足元の大岩からほぼ真下、クインッとウキが海中に消える。さあ、何が掛かったのか!グレなのか!?
来ました、グレ!これも30cm越えの食べごたえのあるサイズ!ちょうどその頃、岩向こうのおじさんも掛かった様子。これぞ、「時合い」なのだ。風がやんで潮が止まり、水温も上がってきて「よーし、あったかいし、ご飯でも食うかな〜」とグレが活動的になった証拠だ。
午後2:30頃、帰港へ。本日の釣果は如何に?
その後も食ったり食わなかったりで、そろそろ帰る時間に。「竿・タモのバッグ」「クーラーボックス」「撒き餌ボックス」の3点セットを片付け。
乗船し、釣り客を順次回収へ。
船頭の美敏さんも、先ほどは付近の沖で船の上から釣りをしていた。かれこれ40年来の、筋金入りの釣り好きである。
2時半を回ったころ、少しずつ風も強くなってくる。
手早く荷物を引き揚げ、釣果の話に花が咲く。疲れなど全く見せない様子。朝から8時間以上も吹きさらしの中で頑張っていたと思えないほど、皆さん元気に弾んだ声で喋っている。釣りが、心底好きなんだろうな。
無事、楠之浦の漁港へ帰り着く。
おおーっ!こんなに釣れた!のは隣の船。僕らの磯では、平均して2,3匹だったのだが、今日はこちらの船の磯が当たりだったのだろう。グレ、ハゲ、アイ(アイゴ)やイサギ(イサキ)もいる。
陸に上がると、みなさっさと片付けやら、休憩所での釣り談義やらをしている。手洗い場へ行くと、釣り客のおじさんが「手ぇ、魚臭いやろ。しょうゆで洗えば臭み取れるんやで」と、僕の手にもしょうゆを少し垂らしてくれた。よく揉んで水で流してみると、本当だ、すっかり臭みがなくなっている。思わぬ豆知識をいただいた。
休憩所で、釣り客のおじさん達と共にコーヒー、茶菓子をいただく。時刻は3時半頃、丸一日を海で過ごしていた彼らの顔は、充実感に満ちている。僕も楽しかった。が、とにかく寒かった。もう少しちゃんと、防風・保温の機能が高いジャケットなどを着ていくべきだろう。
後日談、なんと釣れたグレを食べた!
なんとありがたいことに洋介さんから、釣れた魚を全て頂けることに!!
早速その日に下処理して…そして、「食べずに」冷暗所に置いておく。牟岐に来てから、そこかしこで「魚は2,3日寝かせたほうがうまい」と教えてもらったためだ。また、いくつかは干物にもしておいた。数日後、待ちに待ったグレ料理をいただく!!
まずはグレの焼き魚。奥が干物、手前が生身で、それぞれ両面をグリルで焼いた。味は…うますぎる。うますぎる。鯛と変わらないんじゃないかと思うくらい、ふっくらとしてうまい。うまい以外の言葉が出てこない。
こちらは子持ちグレの煮付け、味噌味。八丁味噌が余っていたので、グレの味を殺さないように抑えめに溶いて煮る。さあ、味は。ああ、なんてうまいんだろう。身がたっぷりとつまっているグレの煮付け、しつこくない味・脂で箸が止まらない。空になるまで食べるのをやめない。そんな自分がいる。
これは、うまい。寒グレのうまさって、こんなにもすごかったのか。洋介さん、ありがとう。
磯釣りをやりたい!と思った方へ
今回の磯釣渡船、取材のために特別に乗せてもらったのだが、実際に釣りに行きたい人のための紹介をしておこう。
牟岐の磯釣渡船は「磯釣渡船組合」で運営されていて、組合かもしくは直接、各船の船頭さんに電話予約すれば行くことができる。料金はどの船も一律一人5000円。ご覧のとおり、荒波の中の危険な磯場へ行くため、救命胴衣は必須、また天候が悪い時には出港しないこともある。どうしても行きたがる熱狂的な人もいるそうだが、海で命を預かる船頭の言うことには従うのが最低限のルール。「貴重な休みを使って来てくれて楽しみにする気持ちもわかるで。ほやけど、遊びで命賭けとったら、何のためだかわからんけんな。」と話す洋介さんの表情は真剣だ。
また、昨今の釣り離れで特に若い世代に、釣りの面白さを知ってもらう場があれば、と考えているとのことで、高い釣具を買わずにレンタルしてパックで楽しめるプランも考案中らしい。自然の中での、静かで、しかし熱い時間を送る、牟岐大島・津島での釣り。今日も大物を狙って、釣り人は船に乗る。
徳島県観光磯釣渡船協同組合 詳細情報
[のりば]牟岐町牟岐浦、牟岐町楠之浦
[値段]一人5000円
[電話番号]0884−72−1313